男の意志は堅かった。身許が明らかでない者は、何人たりとも此処を通す訳にはいかない。其れは男の職務でもあり、意地でもあり、栄誉であった。
玖潭の防衛において重要な役割を果たしている
楢斐の関門。男の一族は代々楢斐の武人であったし、此の地に生まれた以上、男が進むべき道は既に決められていた。何より男にとっては、楢斐の軍団に身を置き、楢斐の為に朽ち果てる事こそが誉れ。武勇を知らしめる為に中央へ行く等というのは、楢斐の人間であれば決して望んではならない事だ。否、そんな事は考えるだけでも悍ましい。此の楢斐を護る事こそ玖潭を護るという事。歴史に名を残せないとしても、楢斐に生き、楢斐に戦い、楢斐に骨を埋める事が、男にとっての至福なのだ。
此の
玖潭という国は、東西の大陸に挟まれた海洋に浮かぶ島――大概は
磯城島と呼ばれる――の南西部に位置する沿岸の国だ。此の磯城島と、其の周囲に点在する小さな島々には、全て合わせると四十余りの国があるのだが、総称として
葦原中津国、或いは
豊葦原中津国などと呼ばれている。中津国とは詰まり、神々の住まう
高天原と死者の地である
黄泉の間にある国、という意味であり、四十余国は何れも同様に八百万の神々を崇め、同様の言語と文字を用い、同様の暦に基づいて月日を測る。故に葦原に生きる人々は互いを同朋と呼び親しみ、何れかの国が何者かによって危害を加えられた場合、四十余国は同朋の為に立ち上がるのだ。此れは義務ではないし、使命でもない。唯、天地開闢以来至って当然な事として、同朋は互いを補い合ってきたのだと、各国に保管された史書には書き記されていた。
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