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「――貴女が来栖将軍ですね」
 耳に届いたのは若い女の声だった。これは一体如何なる事か。杲は訝しみながらも小さく首肯する。すると、杲の背後にある幾つかの松明に照らされて、暗闇に紛れていた相手の顔がやっと明らかになった。ああ、と杲は得心して愛刀の柄から手を離す。その顔には多少だが見覚えがあったし、何より、よくよく考えてみれば、先程の様な動きをするのは彼等以外に考えられない。独特な色合いを持つ海賦の帯を締めた、玖潭の道士以外には。
「到着が遅れました事、まずはお詫び致します。皇尊の密旨により使わされました、葵和(きわ)と申します。そしてこちらが……」
「同じく、紅継(くれき)」
「同じく、梶呂(かじろ)」
 そうか、皇尊が、と杲は呟いた。ご存知であったのか、と吐息と共に言葉を漏らすと、葵和と名乗った女は困った様に眉尻を下げて笑いながら頷く。それならそうと言って下さればいいものを、と思わず杲が小さくぼやくと、あの方はそういうお方ですから、と、葵和の隣に立つ穏やかそうな顔をした青年――確か梶呂と云ったか――が返した。
「正直なところ、僕達も椛峅の姫君が来訪なさっているという事しか知らないのです。人目を憚りこうしてお迎えに上がった訳ですが、何の詳細も聞かされてはいなくて」
「来栖将軍以外の者――特に楢斐の者には姫の情報が漏れぬ様に、と仰せつかったので、多少手荒な方法を取らせて頂きましたが」
「まあ、確かに道士としては手荒だったな。私はうっかり抜刀してしまうところだった」
「ふふっ、それは怖い」
 杲が冗談交じりにそう言うと、葵和はくすりと笑みを溢す。こうして見ると葵和の表情には未だ少女とも言える様な片鱗がある。女と云うよりは娘と云った方が良かったか、と杲は思った。
「ですが、ご心配には及びません。今は気を失っていますが、刺激を与えて軽い記憶障害を起こさせただけです。半刻もすれば目覚め、何事もなかったかの様に宿衛の任に戻れるでしょう。唯、今晩の事件については何も覚えていないでしょうが」
「驚いたな。道士というのは人の記憶の改竄するのも容易いと見える」
「容易くはありませんよ。記憶を全て消してしまうなら幾らでも方法はありますが、特定の記憶だけを掻き消すのには中々力加減が難しい。更に言うならば、有る物を無かった事にするならまだしも、無い物を有った事にするのは容易ではない」
 葵和に向かって杲が感心した様な表情をすると、先程まで言葉を発していなかった精悍な顔付きの道士――紅継が静かな口調で言った。そうなのか、杲が尋ねると、ええ、と言いながら梶呂が苦笑を浮かべて見せる。何故そんな反応をするのだろうか、と杲が小首を傾げていると、紅継は静かに関門の方に歩み寄り、葵和の方を見て言い放った。
「そんな無駄話をしている場合じゃないだろう。俺達が何の為に此処へ来たのか忘れたのか」
「忘れてないわよ、失礼な。馬鹿にしないで」
「ならさっさと開門するぞ。手伝え」
「何その命令口調。紅継に言われなくても自分のしなきゃいけない事くらい分かってます!」
 む、と眉根を寄せて顔を顰めた葵和は、不服そうにしながらも紅継の隣に並んで開門の準備に取り掛かる。互いに何やら言い合っている二人を杲が少し離れて見ていると、肩を竦めた梶呂が杲の横に来て、すみません、と申し訳無さそうに頭を下げた。
「あの二人、何時もああなんですよ。何かあると直ぐ言い合って」
「私が何か要因を作ってしまったのだろうか。だとしたら申し訳ない」
「いえいえ、そんな。あれも仲が良い証拠なのであまり気にしないで下さい。唯、紅継はちょっと精神系統の事には疎くて、逆に葵和はそっちの方が得意なものだから、紅継には少し面白くなかったんだと思います」
「成程。道士といっても得手不得手はあるものだろうが……子供だな」
 くつくつと杲は笑みを溢す。つられて梶呂も、そうなんです、と言いながら笑い、何事だ、といった風に紅継と葵和が梶呂を見遣る。梶呂は小さく手を振りながら、何でもない何でもない、と軽く言い、それじゃあ、と楢斐の関門に手を掛けた。合わせて紅継と葵和も手を伸ばし、堅固な造りの重い関門を外側に開く。ぎい、と門が軋む音が響いて、杲はすっと背筋を伸ばした。ゆっくりと開いていく門の向こうに見える少女。ふと目が合った瞬間、少女がとても寂しそうに笑った気がした。




通学中電車に揺られながら[鵺鳥]を書きすすめています。今週末もう一度見直して更新しようかな、と思ってはいますが、果たしてどうなるか。
いやしかしそろそろ真剣に試験勉強をせねばならん。語学と専門は日頃からちょろちょろやっているので大丈夫かとは思いますが、一部の般教が修羅場を迎えております。やばい何これ超絶つまらない。
ううう、辛いよう(自業自得

ではでは、追記にて日向様の真似をして文章比較なるものをしてみます。笑
興味がある方だけどうぞー。






何だかんだで物書き暦は10年近くになりますが、若かりし頃のとんでもない黒歴史(苦笑)は保管されていないので、12歳辺りのものから晒していこうと思います。どうせなのでサイトでの公開はしていないものを選んでみました。
うわあ、恥ずかしい。←



 あの日も彼はいつものように、山の上で雲を眺めていた。周りの草は風で後ろになびいている。彼は一面に咲いた白い小さな花をむしりとって暇を潰していた。
「そんなことをしたらかわいそうだよ」
「……?」
 惣領息子は村人からも家族からも嫌われていた。そのせいで、声をかけられることはほとんどなかったのだ。ましてこのような山の上には一度だって人は来た事はなかった。
「隣に座ってもいいかな」
 それからはいつも二人で山頂の草原に座っているようになった。話すわけでもなく遊ぶわけでもなく。不思議な一体感を保持しながら。


唯一残っていた12歳の頃の文章。といっても設定は先輩から頂いたものなので、完全なる私の小説ではないのですが。
懐かしいなあ……

 ↓


「官吏になったという自覚が無いのか、お前には」
「まぁ、そう言うな」
琉斗の説教を聞き流すと、毎度の事ながら彼は表情を硬くする。
「何故お前は何時も人の諫言に耳を貸さんのだ」
「貸しているではないか」
言うと琉斗は、翔劉を一つ睨む。
「……睨む事でもないだろう」
翔劉がぽつりと零した言葉に、琉斗は気が付かなかった様子だ。それを見た彼は安堵の息を漏らす。
一時の間の後、風と共に琉斗が口を開いた。
「捜し物が、あるそうだな。この村に」
「捜し物ではない。探し者だ」
翔劉は笑いながら言った。
彼女はどうしているのか、それが今最も気になる事であった。唯一分かっているのは、璃華はこの村に居るのだという事だけ。
官吏になったら先ず此処に帰って来る、と誓ったのだから。


お前はどれだけラ行が好きなんだ、と突っ込みを入れてしまいたくなる3人の名前。確か13歳の夏に書いていたのだと思います。
そう言えばこれ以降中華系は全く書いていないのかもしれない。

 ↓


 暖かな風。甘く芳しい香りと、澄んだ青い空。多彩な花が咲き誇るその中央、円形の白い水場には透明な水が吹き出ている。水柱の周りに飛沫が飛散し、それに反射した光が眩しく目に染みる。柔らかな鳥の声、そして、降り注ぐ幾筋もの陽。
 その華やかな庭に面した回廊、大理石の冷たい床にかつかつと靴音が響く。焦慮を秘めたそれは、回廊の奥へと消えて行く。徐々に小さくなって、段々と遠くなって。
「――イェーツ!」
 荘厳な重々しい扉が、轟音と共に開け放たれる。窓の無い、閉鎖的な室。声を荒げ飛び込んで来た男は、狭い室の中央に居る一人の年若い男の背中を認めて近寄った。
「イェーツ、一体何が起こった?!」
「クラーゲス様」彼は振り返り、そして微笑む。「落ち着いて下さい。あまり大きな声をお出しになると、姫様が目を覚ましてしまわれますから」
 彼等の前には、産衣に包まれた幼子が二人、寝台に寝かされていた。クラーゲスと呼ばれた男はそれを見てふと目を細め、二人の幼子の内の一人――彼の娘へと近付いた。産衣の間からほんの少しだけ覗く、細く短い髪が何とも愛らしい。腕を伸ばし、指先で娘の頬に触れた。
「亜麻色の、綺麗な髪をしていらっしゃいますね」イェーツが言う。そして、少しだけ眉根を寄せた。「王妃様に、良く似ておられます」
「……ああ」彼もまた眉を顰めて頷いた。「イェーツ。それで、この男児は」
 娘の隣に居る赤子を見、返答を促す様に彼はイェーツを見遣った。未だ笑んでいるイェーツはしかし、微細に顔色を曇らせて口を開く。
「姫様がお生まれになったその時、帳の外に置かれて居たのだそうです。私にもそれ以上の事は申し上げの仕様が御座いません。……ですが、姫様が彼を呼んだというのは確かな事実です。それが姫様と彼との絆であり、契約なのだとしたら、私達は介入すべきではありません。それはたとえクラーゲス様であっても同じ事。私達は、何もしてはならないのです。物語を変えるのは、姫様なのですから」
「そう、か」
 苦々しげに呟いて、クラーゲスはもう一度娘の頬を撫でた。白い肌。温かく、滑らかで、柔らかい。そして――こんなにも脆い。
「イェーツ」
「……はい」
「それでもお前は、私に従ってくれるか」
 鋭い目で、王は臣を見る。そして、臣は、答えた。
「魔道士イェーツ、命が尽き果てるまで貴方様にお使えします」
地に片膝を付き、彼は深々と頭を垂れた。その言葉に、クラーゲスは口端を少し吊り上げて笑う。さらりと揺れる銀色の髪。伏せていた顔を上げたイェーツと、目が合った。
「さあ、それでは名を決めよう。我が最愛の娘、ローラの付き人――新しき物語を託されたこの子の名を」


こうして見ると文体が若干変化しているのが分かりますね。恐らくはその頃読んでいた本に影響されているのでしょう(分かりやす過ぎる。笑)
しかし14歳の頃から趣味は変わってないんだなぁ、これが。

 ↓


「ねえ、フランク。退屈だわ」
 短い黒髪をした少女が、傍らの男に凭れ掛かった。男の方はそれを苦に思う様子も無く、にこりと微笑を浮かべて少女を見遣る。
「どうかなさったのですか」
「どうかなさったも何も、退屈なのよ、この上なく。このままじゃつまらなさ過ぎて死んでしまいそう」
「お戯れを、我等のレジナ」
 男が笑んでそういうと、少女は透き通った薄茶の瞳で彼を覗き込む。
「ねえフランク――血が、欲しいわ」
 にこりと笑んで、レジナは言う。フランクは眉尻を下げて、主の前に膝を折った。
「貴女がそれを望むなら」
 レジナは満足そうに頷き、迷わずフランクの首筋に歯を突き立てた。息をするのと同じ感覚で、彼の命を吸う。何とも言えぬ清々しい感覚。体中を何かが駆け巡り、他者の全てを支配するかの様な。
「っふう、駄目ね。不味いわ。やっぱり、甘い、甘い、人の血が飲みたい」
 フランクの首から口を離し、レジナは歌う様に言う。そしてフランクの碧眼を覗き込み、不気味な程に美しい笑みを浮かべた。
「フランク。お前のその目、青くて綺麗ね。私、その色好きよ」
「有難う御座います、レジナ。貴女にそう言って頂けるとは光栄です」
 柔らかな笑顔を浮かべ、彼は言う。
「ですが私にとっては、レジナのその薄茶の瞳の方が余程美しい。吸い込まれそうになる、深い色です。とても、惹かれる」
「……ええ、そうよね」
 少女はくすりと笑みを零した。どうしようもなく可笑しそうにくすくすと笑い、不気味な程に晴れやかな笑顔を彼に向ける。
「だって私の目の色は、貴方の大好きなレーヌ姉様の瞳と同じなんですものね」


確かこれは15歳の時、とある番組で雀蜂か何かの特集をしているのを見て、触発されて書いたのだと思われます。
何処が蜂なんだ!というのは……この一部だけでは分からないですよね(当たり前だ

 ↓


 表情を窺う様に女の碧眼を捉え、男はふと溜息を吐いた。昔から変わらない、頑なで、片意地な、その瞳。
「……笑顔が、気に喰わなかったんだ」
「え?」
 端整な形をした眉を微かに顰め、女は呆けた言葉を返した。その反応を見て男はくつくつと笑い、どこか開き直った様に栗色の髪を掻き揚げる。
「お前のその完璧な笑みを、壊してみたくなったんだよ。壊してみたくて、仕方なかった」
 一国を担う者としての彼女の笑顔。それは何処までも完全で美しく、他の介入を許さない、そんな雰囲気を湛えていた。温和な様でいて親好を感じさせる事はなく、悠然と構えて何事にも動じない。そんな彼女の微笑は彼女本来のものではなく、昔は当然の様にそこにあった温もりが何処にもなかった。
 あまりにも清廉過ぎる笑み。それが、どうしても、許せなかった。拒絶されている様で、耐えられなかった。あの頃の様な笑顔を向けて欲しかった訳ではない。そんな事は不可能だと分かっている。
 だから、せめて。
「――泣かせて、みたかった」
 自分の為だけに、泣いて欲しいと思った。笑ってくれないのなら、せめて、泣いてくれと。
「あの日、お前は泣かなかったな」
 唯の少年と少女でいられた最後の日、離別を告げた彼女は決して涙を見せなかった。感情を殺し、抑え、耐えていた。それがまた、彼を一層陰惨な気分にしているとも知らずに。
「本当は、あの時に泣いて欲しかった。そしたら、二人で逃げようと、思っていたんだ」
 そして、二人で共に、生きようと。そんなのは所詮、泡沫の夢に過ぎなかったけれど。
「……馬鹿」
「は?」
 ぽつりと呟いた彼女の声に、今度は男が顔を顰めた。そんな彼を尻目に女はわざとらしく息を吐き、呆れた様に頭を振る。
「本当に、馬鹿ね、貴方は」
「何を言うか。失礼な」
「絶対馬鹿だわ、貴方は」
「何度も何度も馬鹿馬鹿言うな」
「何度だって言うわよ」
 そこで、一度言葉を切り、華やかに笑う。あの時と同じ、温かな笑み。
「馬鹿ね、本当に。そんな事しなくても、あの≪私≫は≪貴方≫だけのものよ。そうでしょう?」
 悪戯気な口調で言われ、男は一瞬呆気に取られる。しかしその後片手を額に宛がい、くつくつと喉元で笑いを溢した。相変わらずだな、と女に視線を遣ると、お互い様ね、と返される。そんな短い言葉のやり取りでも、思わず目を細めてしまう。
 懐かしいあの日々に、思いを馳せて。
「でもね……そんなに私を泣かせたいなら、一つだけ確実な方法があったのよ」
「ほう、それは実に興味深いな。それは一体何だ?」
「言えば良かったのよ」
 碧い瞳に様々な感情を窺わせながら、彼女は静かに言の葉を紡いだ。笑っている様な、泣いている様な、喜んでいる様な、怒っている様な。
「言えば良かったのよ。私が貴方に別れを告げたあの時に、行くな、と、唯それだけ言ってくれたら、多分私は耐え切れずに泣いていたもの」
 楽しみも悲しみも分かち合い、共に時を重ねてきた。誰よりも互いを理解し、また、理解しようとしている心算だった。それが、二人の関係だった。
 でも、だからこそ、どうしても言えない事があったのだ。
「本当に伝えたい想いというのは、上手く伝わらない様に出来ているんだな」
「ええ、そうね。でも、それでも私は」
 二人は目を合わせ、にこりと笑う。
 麗らかな春の陽が、二人を包み込んだ。
「――幸せだったわ」



16歳の秋に突発的に書きました。報われない恋って美味し過ぎると思いませんか(何
 ↓


「……お慕いしている方がいるの。お父様もその方をとても信頼していらっしゃって、私は、これからの長い人生を彼と共に歩んで行きたい。だから、もうこうして逢うのは終わりにしましょう?」
 揺れる碧眼はそれでも透き通る様に美しく、吸い込まれそうになるその色に、思わず自嘲気味な笑みを浮かべる。涙を堪えている彼女の肩は気を付けて見なければ分からない程度に震えていて、彼女にこんな表情をさせているその男と、何より自分が憎らしかった。
――嗚呼
 胸の内で呟いて、諦めたように一度瞳を閉じる。そしてそれから彼女を見遣り、精一杯の力を使って笑顔を浮かべた。
 彼女を悲しませたくはないから、唯、笑って手を振ろう。
――さようなら、運命の人
 どんなに手を伸ばしても、君にはもう、届かない


受験勉強中、色々嫌になって現実逃避しつつ書いていたもの。何時かこのネタで一本話を書きたいのですが、今はその前に[鵺鳥]を仕上げたいと思っております。

果たして私の文章は成長しているのかどうか、正直自分では分かりませんよね。
でも個人的に自分の歴史を遡れて面白かったです!笑
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