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資料を集めながら少しずつ書き進めている[鵺鳥の片恋]ですが、文化的な所は日本の上代を元にしているのに、法制度に若干律令体制が見え隠れしたり、更に私が好きなギリシャやローマが交じり合ったり、書きながらやはり私の作品はカオスにしか成り得ないのだと悟りました。どうせ創作の世界なんだから好きにすれば良いじゃない!と自分に言い聞かせて設定を組んでいます(駄目だこいつ

以下書きかけですが少しだけ曝します。





 どんどんどん、と三回扉を叩く音がして、瞬時に女は枕元の刀を掴み床から起き上がった。今は未だ夜中だ。海を隔てた西の大陸風にこしらえられた綺窓の向こうには、紺碧の空に煌めく美しい星々が見える。しかし長年訓練を受けてきた女にとって、こうして即座に脳も体も覚醒させるのは造作も無い事だった。
 女は名を杲(ひので)、姓を来栖(くるす)という。女でありながらも広く実力を認められた生粋の武人である。人の気配が近付いて来ているのは先程から気付いていたのだが、其処にあまり不穏な雰囲気は無かったので気を張ってはいなかった。これが要人警護の任務であったなら何者かの気配がしただけで飛び起きるのだが、何分今はこれといった警護対象がいない。杲は愛刀の柄に手を掛けて自室の扉に近寄った。
 此処は海辺の国である玖潭(くたみ)と山谷に囲まれた国である椛峅(かわくら)との国境付近、楢斐(いび)郡にある堅牢な関塞である。楢斐の城砦は玖潭における重要な関門であり、半ば神話地味た史書の記述を信じるならば、玖潭において共和政が発達するよりも遥か前から、長らく地方の政庁と軍営との二つの役割を果たし続けている。故に楢斐に生まれ育った人々は己が出自に誇りを持っており、楢斐の人間同士の結び付きはとても強く、反面余所から来た新参者をあまり好まない。特に中央から派遣された軍人等には比類無く手厳しい。そんな訳で、杲もその例に漏れず、此の土地では微塵も歓迎されていなかった。
「――来栖将軍、おられますか」
 扉の向こうからまだ青年とも言える様な若い男の声がした。辺りに響かない様に気を遣ってか、その声は低く潜められている。杲が刀を手に「ああ」と短く返答すると、外の回廊にいるのであろう男は「申し上げたき儀が」と小さな声で、しかしそれでいてはっきりと言った。それを聞いた杲は、はて、と首を傾げる。将軍たる杲の自室を直接訪れる事が出来るのは、本来なら彼女の直属の部下達数名だけである。しかし扉の向こうの此の気配は杲の良く知るものではない。男の声には何処か逼迫した様な響きがあるが、其処に敵意は感じられなかった為、杲は愛刀を片手に握った儘、自室の扉を静かに開けた。
「何があった」
 戸を開けた先に居たのは、濃紺の脛巾を身に付けた男だった。此の色の脛巾を所持しているという事は詰まり、男が杲の部下の隊に配属されているという事だ。否、或いは杲の配下を騙って侵入した刺客かもしれない。けれども、片膝を付いて頭を垂れている男から不審な気配は感じない。一方、その愚忠にも思える様な実直さは充分に伝わって来る。こんな時間に恐れもせず将軍の自室にまで来た此の男が何を口にするのか、杲は若干の興味を抱きながら男の頭を見下ろした。
「畏れながら、誰が聞いているとも分からぬ所ではお話致しかねます」
 男の言葉に杲は、ふ、と笑みを浮かべて自室の扉を開け放つと、頭の上で手を組み拝している男に向かって立つ様に促した。
「入れ。話を聞こう」
 杲は踵を返して自室の中央にまで進み、手にしていた愛刀を置いて床に胡坐する。言われた男は顔を伏せた儘立ち上がり、室の中に入って扉を静かに閉めると杲の前で揖礼した。
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